Question  現在妊娠4ヶ月です。今マンションで、猫を飼っています。(完全室内飼い)実家の両親から、生まれてくる子供に良くないので猫を処分しろと言われています。猫を飼っていると子供に良くないと言うのです。本当でしょうか?  Cat

Answer  トキソプラズマに関するお問い合わせと思います。トキソプラズマは主として猫を最終宿主としており、その糞便中に原虫がいます。また一部の鳥類、ヤギ、豚、羊などの筋肉内にも原虫が認められることもあり猫との接触、生肉摂取により経口的にヒトに感染します。

感染症状は軽い発熱、発疹、頚部リンパ節腫脹が主体で、ときに心筋炎、肺臓炎、網脈絡膜炎などがありますが、症状が軽度であるためにトキソプラズマ症という疾患に罹患したという自覚をもたれることはまずありません。

トキソプラズマ症は一度感染すると終身免疫として血液中に抗体ができます。妊娠前にトキソプラズマ感染を受けて、その後血液中にトキソプラズマ抗体がある場合には胎児への感染の可能性はないとされています。妊婦のトキソプラズマ抗体の陽性率は7~50%といわれています。妊婦のトキソプラズマ感染は初感染の場合が問題となり、その初感染妊婦の割合は0.2%以下と報告されています。トキソプラズマは風疹と異なり妊娠全期にわたって母体の初感染により胎児へ感染する可能性があります。

妊婦が初感染を受けるとまれに流早産、児の先天性トキソプラズマ症を起こす可能性があるとされていますが、そのはっきりとした実態は充分な調査がされているとは言えないのが現状です。ある報告によると児に垂直感染(母体から胎児、新生児への感染)を認める頻度は妊娠初期14%、妊娠中期27%、妊娠末期59%と垂直感染が成立する頻度は妊娠週数が進むにつれて高くなるとされています。さらに垂直感染が成立して児が感染していてもその70%は無症状という報告もあります。また妊娠後期における垂直感染では児に対してはほとんど影響が出ないとも報告されています。児における異常は頭蓋内石灰化、網脈絡膜炎、水頭症または小頭症などが報告されています。

診断は主として母体の採血による抗体検査(詳しいことはややこしくなるので省略)が行われますが、超音波検査で児に異常がありそうであれば羊水穿刺や胎児採血などが行われることもあります。

治療はトキソプラズマの母児垂直感染の可能性のあるケースでは、妊娠中の母体に対して薬物治療が行われます。

先天性トキソプラズマ症の予防対策は、未感染妊婦の場合感染源との接触をなるべく避けるか、手洗いの励行、生肉摂取を避けることなどがあげられます。しかし、すでに妊娠前からトキソプラズマ抗体を持っている女性が妊娠されても胎児には影響がないことから、妊娠前に長期間猫を飼っていればすでに感染している可能性があるのでリスクは低くなります。しかしおたずねの場合のようにペットとして飼育している動物をむやみに処分するといったことは精神衛生上も好ましいこととは思えません。妊婦さんが以前の感染で抗体を保有していれば問題はないことと、さらに妊娠中に初感染を受ける可能性はきわめて低く、また初感染を受けても必ずしも児が影響を受けるとは限らないと考えられます。担当医での検査所見を加味してご家族の間でよく話し合ってみられたらどうでしょうか。