Opinion  理想的学生生活論 -老年医師の空想- (広島大学医学部水泳部 霞泳会誌 Cooling Down 投稿)  Cat

卒業して××年。いま思えば大学6年間はきわめて貴重な時間だったような気がする。

学生時代にしかできない潤いのある生活をすべきだった。

潤いのある生活とは、もちろん医学もするが、心のゆとりのある生活、すなわち多くの友人達との交流、四季の移ろいを鑑賞し、スポーツを楽しみ、できれば芸術をたしなみ、酒を飲み、満ち足りた休日を送る事が可能な状態をさす。

しかし、どう考えても、今ではそのような生活は無理としか思えない。以前ヨーロッパの病院を訪ねた事があったが、彼らのたっぷりとある休日に羨望を覚えた。が、いまの状態で1カ月の休日を取りたいなどと考えても、全く不可能。

そこで仕方がないのであっさりと現状はあきらめて、過去(=学生時代)、未来(=余生)を考えざるを得ないのであるが、不摂生、老化故に未来にはあまり期待は持てそうにないような気がする。

過去(=学生時代)を回顧すると、「ああすべきだった、そうすべきではなかった。」と思われることが多く、現在の私が考えることを列挙すれば水泳部の学生の方々の多少の参考になるのではと思い、それらを記すことによって原稿依頼の責務を果たす次第。

たかが6年間ではあるが、その使い方によっては極めて有力な時間。場合によっては12年にも延長可能!

もしも、私が、今、学生であったなら

医学の勉強はしない!

医学の勉強などというものは、机上の書物だけから吸収できるものではなく、さらに当然卒後研修でいやという程させられる。したがって、医学の勉強は卒後にすべき事であって、学生の間にすべきことではないのである。国試さえクリアーできればあとは極力フリーな時間をひねりだせばよい。もちろん授業は時間の無駄としか思えないので無視。医学書などは試験の前に最も薄い本をきわめて短時間で読破、読破、読破し(それ以上読破した場合は得点しすぎてもったいないので3回程度にとどめる)、通過最低点を目指す。それが最も効率がよいと思われるので。もちろん、再試験などは時間の無駄以外のなにものでもないので無い方がよいに決まってはいるが、細かい微調整はできないので再試験となってもあっさりとあきらめるという心構えも必要。

ところがなかには、夏期実習という名目で私の元勤務先にも学生サンが最も貴重であるべき夏休みに、こともあろうに実習に来ることがあるが、どう考えても完全な自殺行為としか思えず、このような事は絶対にしてはいけない。卒後は毎日ベッタシのそれが待っているのだから。

次に充分な時間が出来たら何をするか!

卒後できそうもないことで重要と思われるものをどんどん実行する。

すなわち、潤いのある生活に重要と思われる技術をマスターするとともに、資格試験があるものについては、これは本気でがんばって取得をめざす。自動車バイク船舶免許、写真技術、スキー、ダイビング、登山、無線技術、情報処理技術、外国語、楽器、絵画、書道、茶道、俳句、囲碁将棋、麻雀、女性(これだけは例外項目であまり深入りすると大ヤケドとなる可能性があるので軽度にとどめるべきかもしれない)・・・それと、運動クラブの加入(水泳部)、これは将来の友人関係を作り上げるために絶対必要。

さらにまとまった時間があれば可能な限り旅にでる。美しい風景、歴史、風土、慣習にふれ、日常性から脱却した時間を持つ。

学生なので通常生活資金が乏しいため、効率のよいアルバイトをしなければならないが、支出を切り詰めることによって、カバーにつとめる。すなわち、衣服は防寒と表皮を覆えばよいと考え、耐久性と価格によって決め、必要最低限度にとどめる。食事は学食利用と自炊。酒に関しては「酒の味は大変重要なことで、うまい酒を充分に吟味することはとても重要なこと」なのであるが、収入が乏しいゆえに価格によってある程度譲歩せざるを得まい。住居は4畳半で充分。家具はふとんと鍋食器のみでよし。必要器材(パソコン、写真機、楽器など)はただ同然の中古品をさがせばそれでよし。ただ、パソコンソフトの不法コピーをしてはいけない。充分に吟味したものを購入するか、フリーソフトを利用する。もちろん医学書などの準不要品はは極力購入しない。

時間が足りなくなったら、勇気を持って遠慮なく「休学」ないしは「落第」してよい。ただし、親を泣かせないテクニックは必要。

このようにして送られた学生生活は、珠玉の時間となり、その間に培われた基礎的素養は卒後の生活において大きな糧となり、学生生活は極めて有意義なものとして、その価値が生じることになる。

ただし、問題点がないわけでもなく、6~12年間このような理想的学生生活が送れたとした場合、卒後のきびしい研修生活に順応できず、失望し、きわめて重症のうつ状態が惹起される可能性がないとは言えないような気がする。

しかし、水泳部学生諸氏は水泳競争というある所(ゴール)に一番乗りしたいという、いわば人間の基本的欲望に没頭できる人間。すなわち、スポーツ一般の原理はサッカーでいえば玉の取りあい、剣道でいえば棒での叩きあい、登山でいえば高い所に登りたがる動物の習性そのものである。それらのきわめて原理単純と思えるスポーツにうちこめるような人は、前述のようなうつ状態などには決してならない。安心してよし。

したがって、しっかりと、学生生活を充実させていただきたい。

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