Question  妊娠後期です。出産後は母乳で育てようと考えていますが、最近ダイオキシンによる母乳の汚染がテレビで取り上げられ、不安になっています。詳しく教えてください。  Cat

Answer  ダイオキシン類は強い毒性を持った化学物質で、さまざまな発生源から発生しますが、分解し難いために環境中に残存しやすく、人体の汚染や健康に対する影響が懸念されていることから、ダイオキシン対策は世界的にも大きな課題となっています。このため厚生省、労働省、農林水産省、環境庁が一体となって「ダイオキシン類総合調査検討会」を作って調査、研究を行っており、おたずねの母乳中のダイオキシン類に関しては同検討会のもとで厚生省児童家庭局母子保健課がヒトの汚染状況調査のなかで「母乳中のダイオキシン類に関する調査」を行っています。

平成6年より毎年、日本のことなる5つの地域からボランティアより母乳を収集して、国立環境研究所で分析されています。現在のところ平成8年度までの3年分のデータが発表されています。(国立環境研究所、森田昌敏論文より)それによりますと、母乳中のダイオキシン類の濃度は平成6年度より平成7、8年度が若干低くなっていますが、その値はスウェーデン、カナダ、アメリカなど欧米の汚染レベルとほぼ同等で、依然として他の先進諸国のようにダイオキシン類による人体の汚染が進んでいると考えられます。

その結果から乳児の母乳によるダイオキシン類の1日摂取量を見積ることができます。乳児は体重1kgあたり出産当初は80-100mL、3ヶ月以降は130-160mLの母乳を飲みます。仮に、授乳期間中、乳児が1日平均約145mL/kg(体重)の母乳を飲むと考えると、乳児は1日平均約84.5pgTEQ/kg(体重)のダイオキシン類を取り込んでいることになります。これは成人のダイオキシン類摂取(3.5pgTEQ/kg)の24倍もの量になります。もし、この量のダイオキシン類を毎日摂取し続けるとすると180日後には、乳児のダイオキシン類の体内負荷量は13000pgTEQ/kgに達します。これは、人体に何らかの影響を及ぼす可能性が報告されている最低レベルに近い値となります。もちろん、このレベルに到達したからといって、乳児の健康が害されるとは限りませんが、ダイオキシン類の汚染が要警戒レベルにあるとは言えます。

母親の出産児数との関係をみると、一人目、二人目、三人目となるごとに、母乳中のダイオキシン類の濃度は減少する傾向があります。すなわち授乳は母親からのダイオキシン類の排出に貢献していると考えられますが、その分のダイオキシン類は乳児に移行しているわけです。

母親の年齢でみると、年齢が高くなるほど母乳中のダイオキシン類濃度は高くなります。これはダイオキシン類が代謝・排泄され難いために体内での残留性が高く、年齢とともに体内に累積されることによると考えられます。

母親の居住環境や食習慣との関連については、「市街地に住んでいる」、「野菜を多く食べている」、「魚介類を多く食べている」と答えた人に母乳中のダイオキシン類の濃度が若干高い傾向があると報告されています。

ダイオキシン類に対する対策としては、主要な排出源であるごみ焼却炉からの排出削減対策が強く望まれます。