Question  妊娠9ヶ月位から股関節の所が痛くなり、朝起き上がる度に痛みが走ります。昼間など歩き出すとそうでもないのですが、朝の起き上がりに痛むのはなぜでしょうか?骨ははずれてはいないと産婦人科では言われました。  Cat

Answer  妊婦さんの腰痛はかなりの頻度で訴えがあります。その原因や治療についてお話します。まず人類は有史以来はじめて2足歩行を開始した動物といえます。つまり人類以外の哺乳動物は4足歩行であったものが、はじめて2足歩行を始めました。そこで人類は2足歩行になってから時間が短く、まだ十分に進化した身体とはいえない状態と考えられます。2足歩行では上半身の体重が背骨にかかり、その重みを骨盤で受けています。さらに上半身は前後左右に常に動かしているわけで、それらを2本の足で支えているのです。考えただけでも非常に高度なバランスを保ちながら、筋肉によって姿勢を維持しつつ歩行していることになります。そこで重力がかかる腰の部分にストレスが発生し、多くの人の腰痛の原因となっていることはご承知の通りです。

さらにその人類のウィークポイントの骨盤の中に子宮があり、妊娠すると子宮は増大してゆき、体重は10kgあまり増えて、さらに妊娠後半期になると腹部がせり出し、重心も前方に移動します。さらに胎盤から大量のホルモン分泌があり骨と骨とをつないでいる靭帯もやわらかくなり骨は「ずれ」を起しやすくなります。(その大量のホルモン分泌は子宮や産道もやわらかく、のびやすくさせる働きがあり、分娩をスムースに行うのに役立ってもいます)通常の妊娠していない人でも突然10kgのおもりを腹部に着けられて、日常生活を行えば腰や股関節が痛くなるのは当然といえます。妊婦さんははずすことの出来ないおもりを腹部につけて、前方に倒れ込もうとする力に常に身体を後方にそらしながらバランスを取り、歩行などの日常生活を送っているわけです。これでは骨、関節、筋肉からみればかなりのストレスとなりますが、分娩終了までは何とか持ちこたえなければならない訳です。また、日中動いていると身体の筋肉が活発に活動しているために、筋肉のポンプ作用で血液循環が良くなっているわけですが、夜間睡眠時は水平に身体を横たえており、筋肉の活動はほとんどなく血液循環も悪くなり、さらに同じ姿勢をとり関節を動かすことも日中にくらべてぐっと少なくなります。そうすると関節はこわばり動きが悪くなります。そこで朝起床時はクルマでいえばエンジンが冷えておりオイルが充分まわっていない状態といえます。そのまま走り出すとしばらくはクルマ本来のエンジンが暖まってオイルがゆきわたり快調な状態に戻るまでしばらく時間がかかります。おたずねの方もその状態であると考えられます。

治療は妊娠状態をやめて、体重や身体の重心を非妊時に戻せばよいのですが、分娩終了まではもちろん無理です。幸いに分娩までは時間的に数ヶ月なので、その間をどう過ごすかといったことになります。まず体重増加を規定範囲内に保つ努力をすることです。大幅な体重増加は異常妊娠、異常分娩にもつながるので、1週間の体重増加を300gまでとする。鉄分、カルシウムをしっかり摂りながら、総カロリーを落とし気味にすることでしょう。つぎに腰痛に対しては運動療法があります。これは様々な運動(妊婦水泳、妊婦体操など)をすることによって筋力を高め、腰痛を防止し、スムースな分娩の進行などにも効果があります。さらに体重バランスとして腹部が重くなるために、寝具に腹部、腰部が非妊時以上に沈み込み、症状を悪化させるので、寝具はより硬いものの方がよいと思います。