HPでC型肝炎と妊娠については読ませていただきましてが、ぜひB型肝炎と妊娠についても教えてください。私は、B型肝炎キャリアだと思います。
B型肝炎とはウィルスという小さな病原体による病気で、新生児や乳幼児期に感染すると免疫の働きが弱いために、ウィルスをそのまま抱え込み、キャリア(無症候性ウィルス保有者)となり、血液や体液中に生き続けます。ほとんどの場合幼少時は何事も起こらずに経過しますが、大人になり免疫力が強まると今まで共存していたウィルスを排除する現象が起きます。これがB型肝炎の発症です。ウィルスはまれに完全に排除される場合もありますが、大部分はウィルスの遺伝子に変異が起こり姿かたちを変え、免疫機構を逃れた状態で再び共存し始めます。しかし再度の共存がうまくいかず、その後も肝炎が何年も続くと肝細胞の破壊が続くことになります。
日本人の2%前後がB型肝炎ウィルスのキャリアであり、その約10%に慢性肝炎、さらにその一部は肝硬変、肝がんへとすすむといわれています。お産による母子感染(垂直感染ともいい妊娠中、分娩時に母から子へウィルスの感染を受けること)の結果、キャリアを作り出す危険性が大きいためこれをいかに防ぐかが大きな問題とされ、B型肝炎母子感染防止事業として妊婦の検査や新生児の予防措置が行われるようになりました。
B型肝炎関連の検査についてご説明しますと、HBs抗原陽性(キャリア)とは体内にウィルスがいる状態を示し、HBs抗体陽性とは以前実際にB型肝炎に罹ったことがあるか、ワクチンで免疫ができた状態であることを示しています。この状態になれば体内にウィルスはいませんし、他人にうつす(水平感染)や母子感染(垂直感染)はおこりません。つまり「一度麻疹(はしか)に罹患すれば抗体ができて再度発病しない」という場合に使われる抗体と同じ意味を持つものです。HBe抗原陽性とはウィルスが強い感染力を持ち、HBe抗体陽性とは比較的感染力の弱い状態と考えてよいのですが、その弱い状態であってもなぜか劇症肝炎を起こす場合もあることがわかってきました。またGOT、GPTとは肝細胞の中にある酵素で、肝細胞が壊されると血液中の濃度が上昇し肝炎の程度をあらわすと言われていますが、これだけですべてを判断できるわけではありません。
母体が同じHBs抗原陽性であっても、HBe抗原陽性の場合放置すればほぼ100%に母子感染が起こり、さらにその児は高率(80%以上)にキャリアとなります。またHBe抗体陽性であっても約10%に母子感染が起こりますが、児がキャリアとなることはほとんどないといわれています。また、母乳を介しての感染はないと考えられています。
母子感染を予防するためには以下のような手順で処置をします。 HBワクチンを接種されると自分自身の力で抗体を作り、その抗体が入ってきた病原体を迎え撃つわけですが、抗体ができるまで時間がかかります。母子感染の場合は出生と同時に感染の危険に晒されるため抗体産生が間に合わないので、まず最初にキャリア妊婦から産まれた新生児にはまずウィルスを殺す抗体を多量に含んだ薬(抗HBs人免疫グロブリン)を筋肉注射します。その後乳児期にHBワクチンを接種し、自分で抗体を作るようにします。以前のHBワクチンは無毒化した病原体の一部を接種していましたが、最近は遺伝子工学的に作られた抗原を用いるために、他の病原体の混入の恐れのないより安全なものになりました。これらの処置によりほとんどの場合でB型肝炎ウィルスの母子感染を防止できるようになりました。
この母子感染防止事業が続けられればB型肝炎キャリアは確実に減少してゆくものと考えられます。