現在,妊娠10ヶ月です。産婦人科でおりものの検査をしたら、溶連菌と言われ、出産時にもし、赤ちゃんに感染すると、死亡することもあると言われました。とても不安です。大丈夫でしょうか・・・。
おたずねの溶連菌とはB群溶血性連鎖球菌(GBS)といわれているものです。これは成人では感染症を起こすことはまれな菌で、抗生剤に対する感受性も高いので、従来からあるペニシリン剤で充分治療効果がある感染症です。しかし、細菌に対する抵抗性の弱い新生児がこのGBSによる感染を起こすと、髄膜炎、敗血症、肺炎などを引き起こし、死亡あるいは後遺症を残すこともあるとされています。
分娩後の新生児がGBS感染を起こす感染ルートは(1)垂直感染といって妊婦さんの産道にいるGBSが分娩の時に産道内で新生児に感染を起こすものと、(2)水平感染といって分娩の時に感染するのではなく分娩の後に産道以外から感染するものと2種類あります。新生児のGBS感染は(1)の垂直感染の方が(2)の水平感染よりかなり多いと報告されています。
(1)の垂直感染は産道内にGBSがいることが感染のもととなるわけで最近では妊娠中にGBSの検査を全例に行う施設もあります。この検査は妊婦さんの腟内分泌物を培養し、GBSがいるかどうかを調べるものです。妊娠経過に異常がみられない妊婦さんの腟内からGBSが検出される率は10%前後と報告されています。もちろん妊婦さんの腟内にGBSがいても生まれた新生児に全例伝播するわけではなく、伝播率は15%以下と思われます。またGBSが新生児に伝播しても全例新生児GBS感染症を発症する訳ではないので発症率はさらに低くなり、結局腟内にGBSを保菌している妊婦さんの200人に1人程度に新生児GBS感染症が発症することになります。腟内GBS保菌の有無とは無関係に全部の妊婦さんで考えれば2000人に1人程度の発症率となると思われます。
新生児GBS感染症の詳細については新生児科、小児科の領域となりますので、妊婦さんのことをお話しますと、正常妊娠の経過をたどっている妊婦さんの腟内からGBSが検出されたとしても妊娠中は特に治療を行う必要はありません。分娩の時にも通常は何もしませんが、生まれた新生児の方はGBSの培養検査を行います。前期破水や早期破水といって破水してから分娩までかなり時間がかかると考えられるようなケースでは母体にペニシリン剤を投与します。また、早産しかかっている切迫早産の方や、子宮内胎児発育遅延がある方については生まれる新生児の抵抗力が弱いことが予測されますので、あらかじめ母体にペニシリン剤を投与しておくこともあります。
かいつまんで新生児GBS感染症についてお話いたしましたが、妊娠中の妊婦さんの腟内GBS保菌の判定を正確に行うことはなかなか困難なことなのです。というのは本来腟内分泌物中には多くの細菌がいて、培養すると様々な菌が出てきます。そのうちGBSがどの程度いるかの判定は現実問題としては難しい面があるようで、何度も検査をすると何も治療していないのに陽性→陰性、また陰性→陽性となったりすることがあります。また検査結果が出るまでに1週間前後かかるため、分娩直前の検査結果判明が理想的ですが、いつ分娩になるかわからないためにあまりぎりぎりのタイミングだと分娩時に検査結果が間に合わないといったことも起こり得ます。さらに前例に行うとなると費用もかかります。現時点では妊婦さんのGBS検査をどのよに行えばよいか、結果をどのように評価すべきか、どのように加療すべきかといった点については模索中といったところが現状だと思います。