避妊法の話
妊娠は卵子と精子が卵管内で出会い受精が起こり、その受精卵が子宮内膜に着床することによってスタートします。避妊はその過程のどこかをブロックし妊娠しないようにすることによって行なわれます。すべての女性は望まない妊娠をしないように、女性が自分の体を自分自身で守るためにも、避妊に対する正しい知識を身につけなければなりません。避妊自体は決して男性まかせにするものではなく、女性自身がきちんとした知識にもとづいて、自分にいちばん適した方法を見つける必要があります。以下に代表的な避妊法をご説明いたします。
(1) コンドーム
コンドームを男性性器に装着して、精子が腟内に入らないようにする方法で、現在では最もポピュラーな避妊法といえます。さらにクラミジア、淋病、エイズなどの性行為感染症の予防にも効果があり、正しく使用すれば高い避妊効果が得られます。しかし、破損、滑脱、きちんと装着できていない場合など失敗するケースも起こり得ます。ある統計によるとコンドーム単独で避妊した場合2~12%の失敗率があるとされています。
(2) 殺精子剤
膣の中で精子を殺すゼリー、フィルム、錠剤などを腟内に挿入する避妊法です。これらの避妊効果はゼリー、フィルム、錠剤挿入後5分から60分持続します。もちろんこの間に射精が行なわなければ無効となります。この殺精子剤単独による避妊の失敗率は3~21%と言われており、かなりの幅があります。失敗率も多いので殺精子剤単独での避妊はあまりお勧めできません。したがって失敗率を避けるためにはコンドームとの併用が良いと思われます。
(3) IUD(Intra Uterine Contraceptive Devices) (詳しくはここを)
IUDとは避妊の目的で子宮の中に入れるプラスチック製の小さな器具のことで「子宮内避妊器具」という意味の英語の略称です。避妊効果はピルと並んできわめて優れています。避妊リングもIUDの一種ですが、挿入の際に麻酔をかけて、子宮の入口を広げる必要がありました。現在では、現在では挿入の際に細長い形に変形するタイプのものができました。麻酔の必要もなく簡単に出し入れができ、短い糸がついていて装着の確認ができるなど、多くの利点があるため、現在ではこのタイプのものが広く使われています。
IUDの長所は
[1] 避妊効果・安全性が高い、失敗率は0.3~3%程度
[2] 毎日薬を飲んだり、性交のたびに避妊を行う煩雑さがない
[3] 女性の意志のみで避妊が実行でき、男性の協力は不必要
[4] 授乳中の女性、ピル服用が好ましくない疾患をもった女性でも使用可能
[5] IUDを抜去すれば簡単に避妊を解除できることなどがあります。
(4)ピル
欧米では低用量経口避妊薬(ピル)の服用者はずいぶんと多く、国によっては妊娠可能な女性の2人に1人またはそれ以上の率で広く受け入れられています。現在使われている低用量ピルは含まれているホルモンの種類や服用日によって段階的にホルモン量を変化させているものなど大きく分けて6種類あります。
避妊効果については理想的に服用した場合の妊娠率は0.1%以下とされています。したがって極めて高い避妊効果と言えますが、必ずしも100%の効果があるわけではないことと、飲み忘れや飲む時間のずれなどによっては妊娠率が増加する点については注意が必要でしょう。また、服用中止によってほぼ3ヶ月以内に排卵が再開しますので、妊娠希望となった場合にも十分に対応できます。
実際の服用方法は開始第一周期目は月経開始初日から飲む方法と月経開始後の最初の日曜日から飲む方法(これによって結果的に週末に月経になるのを避けることができることと7日分がカレンダーの1行となるので服用日がわかりやすいというメリットがある)とがあります。21日間飲み終えるとセブンデイズ・インターバルといって7日間休みその翌日の8日目からまた飲み始めるわけですが、実際に21日間飲んで7日間休むタイプとプラセボ(偽薬)を7錠加えて28日分として休まずに毎日服用するタイプの2種類があります。
(5) 不妊手術
永久的な避妊のために女性側の卵管を結紮する卵管結紮術と、男性側の精管切除術があります。卵管結紮術は入院が必要で、開腹して行なう方法と経腟的に行なう方法があります。分娩直後では子宮が大きく経腟的には不可能なので開腹して行なうことになります。帝王切開時に合わせて行うこともよく行なわれています。不妊手術は一度行なえば一生ほぼ確実な避妊法となりますが、もし手術後子供が欲しくなった場合は、卵管を元に戻す手術はきわめて困難なので、基本的には体外受精を行なわないと妊娠することが不可能となります。したがって、手術を決める前には慎重に考える必要があります。
(6)膣外射精
射精する直前に膣から男性性器を出して膣外に射精するものですが、成功率が低く、失敗率が高いためにとても適切な避妊法と言えるようなものではありません。
(7) 基礎体温法
毎日基礎体温を計ることによって、排卵日、妊娠しやすい時期、妊娠しにくい時期を知り避妊をするものですが、精度が低いために失敗することが多いため、あくまで補助的な避妊法といえます。精子自体も女性の体内で1週間近く生きている場合があったり、排卵のリズムも月によって大きく狂う場合があるためです。
(8) 緊急(性交後)避妊法
薬剤を用いた性交後避妊法として、Yuzpe法とかモーニング・アフターピルといって性交後72時間以内にホルモン剤を2錠飲み、その12時間後にまた2錠飲むといった方法があります。文献的には妊娠率は2.5%となっています。また、最近認可されたノルレボという薬剤はYuzpe法より吐き気などの副作用が少なく、妊娠率もYuzpe法より若干少ないし、2錠1回の服用でOKです。また、性交後なるべく早く受精卵着床前にIUD(子宮内避妊器具)を挿入することも理論的には避妊が可能といえます。
これらによる性交後避妊はあくまでコンドームの破損や滑脱が起こった場合や、レイプ被害などのケースに限るべきであると考えられます。すなわち、避妊自体はお二人で相談の上の家族計画にもとづいて事前に充分な合意のもとに計画されるべきものであって、避妊のことを事前に考慮しない無計画な性生活が行なわれ、後になってあわてて緊急避妊を行なうといったことは決してお勧めできるものではありません。