Mawaru 月経痛の話

毎月の月経に際してかなりの痛みを感じる方は多いものです。特に学業、仕事、家事、育児などに際して月経痛がひどい場合は大きな影響を与えることになります。仮に毎月の月経のたびに2日間痛むとすると1年で24日、月経期間が35年あるとすると女性の一生のうちでなんと24×35=840日間も月経痛を感じて過ごすことになります。

この月経痛には一般的に2つの原因があります。

(1)月経のときは血液のかたまりや厚くなった子宮内膜が細い子宮頚管の中を通過して出てくることになりますが、子宮頚管が細いとなかなか通過せずに子宮内腔は血液が貯留します。そうすると子宮内腔の血液を押し出そうとして子宮の筋肉がひどく収縮して、痛むものです。癒着やしこりはできませんが、子宮の筋肉の収縮が強いとひどく痛みます。また、月経血が膣方向へ出る以外に卵管を通って腹腔内に出ることもあります。このことは開腹手術患者さんがたまたま月経中であった場合には開腹時に腹腔内に血液貯留が認められることでもわかります。この子宮筋(平滑筋)の収縮をおこす物質は同じ平滑筋である腸管の平滑筋も収縮させるために、腸の運動も活発となり月経中は通常便秘傾向の方であっても便秘が解消したり、さらには下痢傾向となったりもします。

これは器質的な病変ではなく機能的な月経痛と言えるもので、子宮や卵巣などの骨盤内臓器は病的な状態あるとは言えません。

治療としてはその子宮の収縮を抑える働きのある痛み止めを服用します。さらに月経のときの出血量を抑えるような薬も効果的です。特にピルを内服すると月経量がぐっと減少しますのでかなり楽になります。また中容量ピルを内服した場合は、月経となる時期を早めたりまたは遅らせたりと自由にコントロールできますので、試験や旅行などの行事中の月経を避けることもできます。このようなタイプは若い人に多く、もうひとつの月経痛の原因である子宮内膜症という病気とは根本的に異なります。

(2)月経痛をおこす器質的な病変として子宮内膜症があります。近年子宮内膜症の女性が増加してきています。子宮内膜症とは、20~30才代で発症し、放っておくと年を追うごとに症状が悪化、卵管癒着や卵管閉塞による不妊の原因になる場合があります。また、疼痛のために快適な生活が送れなくなります。がんのように悪性の病気ではないので、生命に直接影響する病気ではありませんが、場合によっては手術で子宮や卵巣を摘出しなければならないこともあります。早めの診断、治療を受けたいものです。

子宮内膜症ができる場所は子宮の外側のお腹の中や子宮の筋肉内です。子宮内膜は、毎月卵巣から分泌される女性ホルモンの働きによって、周期的に出血(月経)を繰り返しています。ところが、子宮内膜の一部が何らかのきっかけで、子宮の外の卵巣の中に入ったり、腹膜に付着したり、子宮の筋肉の中に自然に発生したりすることがあります。このような病気を子宮内膜症といいます。毎月の月経の時には、このお腹の中の卵巣や腹膜、あるいは子宮の筋肉の中にできた子宮内膜症の病変の部分からも、子宮内腔にある正常の子宮内膜からある出血(月経)と同じように出血が繰り返されます。けれども、出口がないので出血した血液は腹膜の中に内出血したり、お腹の中で固まって血液のコブ(血腫)をつくります。そして、出血がひどくなると炎症がおき、まわりの臓器と癒着をおこすようになります。子宮内膜症には「外性子宮内膜症」と「内性子宮内膜症(子宮腺筋症)」の2種類があります。外性子宮内膜症は子宮の外にできるもので、20才代に最も多く発症します。一方、内性子宮内膜症は子宮の筋肉の中にできるもので、40才代に最も多く見られます。

子宮内膜症の症状は、月経痛、腰痛、下腹痛、排便痛、性交痛などで、卵管の癒着によって不妊症の原因となることもあります。しかし、子宮内膜症の初期には自覚症状がない場合もあり、また疼痛にも個人差があります。

子宮内膜症の治療には大きく分けて、薬で治療する保存療法と病変部を摘出する手術療法などがあります。

A 子宮内膜症の保存療法

保存療法には、ホルモン剤を使って一時的に閉経状態を作り出す「偽閉経療法」が一般的です。これには月に一度注射を打つ方法と毎日鼻腔内薬をスプレーする方法があり、約6ヶ月間続けます。未妊の方や将来妊娠出産を希望されている方は妊孕性を失わないために、このホルモン剤による偽閉経療法が選択されるケースが多いことになります。偽閉経療法治療後はかなり改善されることが多いのですが、時間が経過するにつれて再燃することがあります。もちろんこの偽閉経療法中は月経がありませんので、月経痛はありません。この月経がないことによって、新たな出血がないために病変部が萎縮自然吸収されて改善することになります。しかしこの偽閉経療法中は副作用として更年期障害ともいえるほてり、発汗などが当然起こります。

また、妊娠された場合は通常は1年以上月経がなくなりますので、この偽閉経療法を行ったのと同じことなので、妊娠されれば子宮内膜症はかなり改善されることになります。

また、避妊もかねてピルを内服されると月経量が減少しますので、子宮内膜症病変部からの出血量も減少しある程度の症状改善も認められます。特に子宮内膜症病変が初期の方では有効な治療法と言えます。さらにこの場合には前述の偽閉経療法のような更年期症状のような副作用はありません。

B 子宮内膜症の手術療法

病変が高度であったり、症状が強い方には手術によって病変部を摘出するケースもあります。未妊の方や将来妊娠出産を希望されている方は妊孕性を失わないような手術となりますが、妊娠出産を終えて挙児希望のない方では子宮、両側卵巣ともの摘出となることが多いと思われます。子宮、両側卵巣を摘出した場合は再燃、再発はありません。

C 子宮内膜症の経膣穿刺アルコール固定

膣の奥の子宮と直腸との間を「ダグラス窩」といいますが、そのダグラス窩は外性子宮内膜症の好発部位であり、古い月経血がたまりチョコレート嚢腫と呼ばれるものができやすいものです。これを膣方向から穿刺しチョコレート状の内容物を抜き取り、内腔を洗浄してアルコールを注入し内膜組織を破壊して子宮内膜症の病変部からの出血を止める方法があります。病変部がその一箇所であればある程度有効な方法です。この方法では子宮や卵巣の働きに影響を与えませんので、妊娠や出産も可能です。

(1)や(2)のような2つの月経痛は、原因や治療法が全く異なります。月経痛がひどい方はどのような状態なのかを正確に診断することが必要です。診断には超音波検査が広く行われています。