Mawaru 卵巣がんの話

卵巣がんの頻度は2.000人~5.000人に1人といわれ、先進国では増加傾向にあります。卵巣がんは特有な症状が少なく、特に初期のものでは全く無症状であり、早期発見に有力な手段に乏しいことなどから、発見された時には進行している場合が多く、5年間生存する率も5~30%といわれています。

また、卵巣が大きくなる原因には、卵巣の類腫瘍、良性腫瘍、境界悪性腫瘍、悪性腫瘍と多種多様にあり、卵巣が大きくなった原因の診断は必ずしも容易ではありません。 卵巣がんの好発年齢は40才~50歳ですが、卵巣腫瘍の組織型には様々なものがあり、胚細胞性悪性腫瘍と呼ばれるものは20才前後に好発するものもあります。

卵巣がんの危険因子としては、未婚、未妊、未産、長期にわたる卵巣機能異常、動物性脂肪の多量摂取、1日15本以上の喫煙習慣、卵巣がん・乳がん・大腸がんの方が身内にいる方などがあげられています。それらを詳しくご説明しますと、妊娠は卵巣がんのリスクを低下させ、このリスクは1回の妊娠で0.6~0.8、2回以上で0.1~0.15となります。また授乳はリスクを低下させ、高年妊娠はむしろリスクを高めるといわれています。また未婚者は既婚者に比べ2.6倍のリスクがあるとも言われています。排卵障害のない未妊の方や不妊症の方はリスクが高くなり、早発初経や晩発閉経といって月経開始が早すぎたり、閉経が遅すぎる方もリスクが高くなります。ピルによって長期に排卵を止めている方は卵巣がんのリスクが低下し、10年以上にわたりビルを服用している方では卵巣がんのリスクは0.2まで低下し、これはピル服用中止後も長年にわたって有効といわれています。

卵巣腫瘍はその組織型から良性腫瘍、境界悪性腫瘍、悪性腫瘍に分類され、さらにそれらの中には非常に多くの組織型があります。なお、この表現は平成2年までは良性群、中間群、悪性群と分類されていました。この分類は手術して取り出した卵巣腫瘍を顕微鏡で見る組織検査によってどのグループか、組織型は何かといったことが決定されます。したがって手術前の卵巣腫瘍があると診断された時点では確定診断はできないことになります。

卵巣腫瘍の診断の方法は症状に乏しいために、まず一次検診として一般外来や集団検診では問診、内診、経膣超音波検査、経腹超音波検査などを行い卵巣が腫大していれば二次検診(精密検査)を行うことになります。二次検診では良性を考えるか、悪性を疑うかといったことや腫瘍の拡がりを中心に調べます。方法としてはCTやMRIといった画像診断、血液採取による腫瘍マーカー検査などが行われています。子宮がん検診では細胞診や組織検査によってはっきりと診断されることがほとんどですが、卵巣腫瘍の場合には卵巣が解剖学的に外部から到達できない位置にあるので、細胞診や組織検査は基本的に不可能であり、手術前に診断を確定させることはできません。特に初期の卵巣腫瘍では不正出血、おりものの異常、疼痛といった自覚症状も皆無であるためにご本人から自発的に医療機関を訪れるきっかけがないこともきわめて診断上不利と言えます。また子宮がんであればきわめて初期のものであってもかなりの率で診断可能ですが、卵巣がんの極端な初期のもの、たとえば卵巣に5mm大の卵巣がんがあったとしても、上述のように細胞診、組織検査ができない上に、超音波検査でも客観的所見を得ることができないので、その存在を診断することは一般的にはできません。ごくまれには他の疾患で開腹手術をした時に両側卵巣をチェックし、その際偶然に小さな卵巣がんが発見されるといったきわめてラッキーなケースもあります。

治療は手術によって摘出し、その後化学療法や組織型によっては放射線療法を追加することが一般的です。この際に卵巣がんは他のがんと異なり、前述のように正確には術前に診断し得ないまま手術にならざるをえないのが特徴といえます。卵巣腫瘍は一般的にはいかに良性と考えられるものであっても7cmを超える大きさのものは手術治療の対象とされることが多いと思われます。もちろん卵巣悪性腫瘍と考えられるものについては7cmより小さくても治療の対象となります。